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最高裁判所第一小法廷 平成6年(行ツ)230号 判決

那覇市宇栄原一丁目二七番一二号

上告人

具志孝正

右訴訟代理人弁護士

和田隆二郎

伊東元

木戸伸一

安酸庸祐

遠藤幸子

那覇市旭町九番地 沖縄国税総合庁舎

被上告人

沖縄国税事務所長 古屋賢隆

右指定代理人

小沢満寿男

右当事者間の福岡高等裁判所那覇支部平成五年(行コ)第四号職員の証言不許可処分取消請求事件について、同裁判所が平成六年八月二五日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人和田隆二郎、同木戸伸一、同伊東元、同安酸庸祐、同遠藤幸子の上告理由について

原審の適法に確定した事実関係の下においては、本件訴えを不適法とした原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は、原審の認定に沿わない事実に基づき、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小野幹雄 裁判官 大堀誠一 裁判官 三好達 裁判官 高橋久子 裁判官 遠藤光男)

(平成六年(行ツ)第二三〇号 上告人 具志孝正)

上告代理人和田隆二郎、同木戸伸一、同伊東元、同安酸庸祐、同遠藤幸子の上告理由

一、証言義務の発生について

公務員の証言義務について、原判決は、「公務員等が職務上の秘密に関して証言する場合の監督官庁の承認については承認をしない場合の理由について疎明することを必要とせず、承認をしないことに対する不服申立の方法は何も規定されていない」こと、および「公務員等が証言拒絶をする場合には、その当否についての裁判を経ることを要せず、公務員等はいわば絶対的に証言を拒絶することができる」ことを理由として、「民事訴訟法上、公務員等の秘密に関する事項については、監督官庁等の承認がある場合に限って、当該公務員等の証言義務が認められるのであって、その承認が得られないときには、絶対的、不可変更的に当該公務員の証言義務は発生しないのである。」と解する。その上で、「民事訴訟の当事者には、民事訴訟法上、監督官庁の承認が得られない場合にまで、公務員等の職務上の秘密に関し当該公務員等の証言を求め得ることが権利として認められているわけではないのであるから、監督官庁の不承認が訴訟当事者の右のような権利を侵害するということもあり得ない」として本件不許可処分の処分性を否定する。

また、原判決は、原告適格についても、「本件処分により、被控訴人の職員については、そもそも証言義務が発生しないということになるのであるから、右職員との関係においても処分性を認めることはできず…」とする。

しかし、公務員が証言について監督官庁の承認を要するのは、「職務上の秘密」に関する証言についてだけであり、これに該当しない事項については監督官庁の承認を必要としない。したがって、公務員が証言を求められている事項のうち、当該公務員の「職務上の秘密」については証言義務がはじめから発生しないと解するとしても、その他の事項については、一般の証人と同様に証言義務が発生し、訴訟当事者はその証言を得る利益を有する。

本件では、被上告人がその職員の「職務上の秘密」に該当しない事項について、証言を不承認、不許可とした事案であるから、証言義務が発生しないことを理由として処分性を否定することはできない。

二、違法な不承認、不許可を争う方法について

監督官庁の不承認、不許可が違法になされた場合にこれを争う方法について、原判決は、「監督官庁等の右不承認について、何らかの争訟の方法を認める余地があるとすれば、……当該民事訴訟の手続内においてこれを認めるのが合理的であり、……別個の行政訴訟で監督官庁等の不承認の取消を求めることができるとすることは、……まことに不合理」であるとの見地から、「民事訴訟法上、監督官庁等の不承認に対し不服申立の方法が全く定められていないことは、とりもなおさず、当該民事訴訟の手続内はもとより、それ以外においても名目の如何を問わず、これについては争訟する途を認めていないことを示すもの」と解している。

しかし、「職務上の秘密」に該当しない事項について、監督官庁の長が違法に証言を不承認とした場合、これが違法であることは疑いがない。また、「職務上の秘密」についても、監督官庁の長がその裁量権を超え、またはこれを濫用して不承認とした場合も違法である。法律に違反する行政が行なわれ、これによって損害を受けた者がある場合、法は、現行法上のいずれかの手続によって救済をはかることを予定しており、法が違法な行政について救済が認められない事項があることを容認しているものとは解されない。法律の執行が適法に行なわれないことは、すべて最終的には司法権の作用によって担保されているのであり、どのように違法な行政が行なわれても、これをチェックし、これによって損害を受けた者を救済するための法的手続がないというような法の解釈は日本国憲法のもとでは許されない。

本件のような証言の不承認、不許可が違法になされた場合は、訴訟手続内で違法性を争う方法が認められない以上、一般の行政処分と同様、行政訴訟によって救済がはかられるべきである。

なお、原判決は、「別個の行政訴訟で監督官庁等の不承認の取消を求めることができるとすることは、行政訴訟の目的である監督官庁等の不承認の取消を得る前に、これとは関係なく、当該民事訴訟が進行し、事件の終結をみる可能性があり、まことに不合理といわなければならない。」というが、これは制度の欠陥である。このような行政訴訟については、原判決のいうような不合理が生じないよう、運用には格別の配慮を要するが(現に上告人は、証言の不許可について別手続で争っていたので、裁判所に対しその結果が判明するまで訴訟を終結しないよう要請していたが、受入れられず、「不合理」な結果となった。)、このような制度の欠陥を理由として、違法な不承認、不許可に対する救済方法がまったくないものと解することは本末転倒の解釈である。

三、以上のように、原判決には、法律の解釈、適用を誤った違法があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであるら、上告の趣旨記載のとおりの判決を求める

以上

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